命を削って彫り上げた遺作
his posthumous work
二人展のメインビジュアル
■現役の気魄
秀碩と岩本 博幸さんの「印章作品二人展」、その事実上のプロデュースを仰せつかる際、二人に1点だけ、お願いを申し上げました。
「今回の二人展のために、何かしら”新作”を用意してください」
私としてはこの展覧会を単なる回顧展で終わらせたくはありませんでした。
今なお元気で活躍中の「現役」として今回の展覧会に臨む、という二人の「気魄」を、明確に提示したかったのです。
もっとも、いきなりそう言われた二人とも、ゲッとのけぞるほどに驚いていましたが(笑)。
■メインビジュアル
秀碩には、今回の二人展のメインビジュアルとなるハンコの彫刻を依頼しました。
サイズはさすがに日本将棋連盟様の9センチ角には及ばないものの、それでも6センチ角の堂々たるサイズです。
そこに彫刻する文字は「秀碩 博幸 二人展」。
ただし、秀碩の体力面を考慮して、中央に大きく入れる「二人展」は、朱文(文字以外の余白を彫る)ではなく、白文(文字を彫る)としました。
余白より文字を彫るほうが作業面積も少なく済み、その分だけ負担も少なくなります。
また、デザイン的にも中央の「二人展」が白く浮き上がることで、かなりのインパクト与えるだろうと考えました。
■真夏の製作作業
彫刻作業、ならびにそのビデオ撮影は平成24年(2012)の盛夏、お盆期間に行われました。
あの夏は連日うだるような暑さだったことを、今でも鮮明に覚えています。
そんな中、店を閉め切り、店内の明かりもすべて消し、秀碩は手元の蛍光灯だけを頼りに、ただひたすら黙々と彫り進めました。
その模様は↓こちらでご覧いただけます。
心なしか、秀碩の表情からは、いつも以上に鬼気迫るものを感じさせます。
…ひょっとすると、この時点で本人は自らの運命を悟っていたのかもしれません。
■まあこんなものだろう
そうして出来上がった完成品の印影が↓こちら。
秀碩曰く、
「今のオレの腕なら、まあこんなものだろう」
そう本人は謙遜しますが、荒々しい中にも精緻な仕事ぶりが窺える彫り跡に、一人の職人の最晩年の矜持と覚悟が見て取れるかのようです。
ともあれ、暑い中お疲れさまでした。
そうそう、彫刻作業も中盤に差しかかかったある日、少しでも英気を養ってもらおうと、昼食に近くの不動尊参道角にある有名な鰻屋のうな重を差し入れたことがありました。
驚くことに、秀碩は息子の私より早く、ほんの5分で見事完食!
その後、素知らぬ顔で彫刻作業に取り掛かりました。
そういえば、生前彼がよく口にしていたのを思い出します。
「早飯、早〇も職人の芸のうち!」