秀碩、9cm角印を彫る/秀碩WEB記念館

畢生の大作

his biggest work

秀碩、晩年にして大作に挑む

秀碩、9cm角印を彫刻中

平成20年(2008)秋、秀碩は某団体様より一辺が9cm角印章(他合計10点)のご注文を承りました。

9cmの柘印材、及び彫刻時にそれを固定するための専用治具の特注~はかま製作などを経て、同年12月より印稿製作に着手しました。


■印稿制作

秀碩、9cm角印の印稿制作中

12月中旬、秀碩は延べ約4日間をかけて印稿を製作しました。

印稿には、事前にその仕上がりイメージをお客様にご覧に入れてご確認いただくという役割もありますが、製作者自身にとっても、構想を具現化するために必要不可欠な工程です。

まず最初に鉛筆で下書き、続いて一通り筆で書いた後に、ホワイトで修正して完成です。

なお、印稿段階では、周囲の外枠は実際の仕上がりより太めに書かれています。


■字入れ

秀碩、9cm角印の字入れ中

まず印面(彫刻する面)に朱墨(朱色の墨)を塗り、そこに印稿を基にした文字を筆で施字していきます。

とこどどころに見受けられる、文字の周囲の赤いにじみのようなものは、 墨で書いた文字線をさらに朱筆で修正した跡です。
また、右上文字の一部分は光に反射して白くなっています。ご了承ください。

なお、この写真は秀碩自身がコンパクトデジカメで接写し、プリントしたものです。
画面右下に「2009.02.04」と撮影日が記録されています。


■荒彫り工程

秀碩、9cm角印の荒彫り中

荒彫りとは文字通り、字入れした文字のキワに沿って、余白部分を大まかに切削していく作業です。

1辺が9cmある角印の面積は9cm×9cm=81c㎡。
これは一般的な実印サイズである15mm丸の面積1.76c㎡の、なんと46倍!

「この齢になってこんなに大きなものを彫るとは思わなかった」と苦笑する秀碩ですが、 根っからの仕事好きな職人なので、けっこう楽しみながらボリボリと豪快に彫り進めたようです。


■荒彫り完了

秀碩、9cm角印の荒彫り完了
秀碩、9cm角印「印」の部分アップ

丸々1週間以上を以上を費やして、ようやく荒彫り工程終了です。

秀碩は仕上げ工程において自由闊達に文字を作っていく芸術家肌の職人ではありません。
完成形に近い形で荒彫りが完了するよう、愚直なまでに丁寧な仕事を施してきました。

今回のご注文に際しては、文字の躍動感を表現することに主眼を置いて臨んでいるとのこと。
これからの仕上げ工程でも常にそのことを念頭に置き、生きた文字線を創り出していきます。

下の写真は右下(捺した場合は逆の左下になります)「印」の文字部分のアップです。


■仕上げ工程

秀碩、9cm角印仕上げ中

ただの“線”に生命を吹き込むことで“文字”へと変貌させる、極めて重要な工程です。

この道60年以上の超ベテランの秀碩も、全神経を研ぎ澄ませて印面と対峙します。


仕上げ前 / 仕上げ後

秀碩、9cm角印「印」部分仕上げ前
秀碩、9cm角印「印」部分仕上げ後

■上:左側の“盟”のは仕上げが施されており、右側の“印”とその上の文字は仕上げ前の状態です。
■下:右側の“印”とその上の文字も仕上げが施されています。


■完成

秀碩、9cm角印完成

こうして2009年2月下旬、9cm角印章の彫刻は全工程を終了、完成しました。

秀碩晩年期の代表作が、またひとつここに誕生です。


■試し捺し

秀碩、9cm角印試し捺し

さすがに一辺が9cmにもなる巨大な角印は捺印するのもひと苦労。

朱肉を付けるときはハンコではなく朱肉の右手に持ち、角印の印面を上に向け、その表面に朱肉を上からまんべんなく叩きけていきます。

そうして印面全体に朱肉が均一に乗ったことを確認し、まさに渾身の力を込めて捺します。
秀碩でなくとも、これはかなりの重労働です。

このWebページを制作、公開した当時はご注文いただいた先様の名を伏せ、彫刻中の印面の写真も不細工なモザイク(笑)処理を施していました。

その後、平成12年(2012)の「印章作品二人展」開催に際し、この作品の印影を展示させていただきたい旨を先様に打診すると、ありがたくもご快諾を頂戴致しました。

「秀碩の代表作ギャラリー」にて陳列展示してございます通り、本作は日本将棋連盟様よりご注文いただいた「日本将棋連盟免状印」です。
同時に
「名人之印」
「王将之印」
「王位之印」
「王座之印」
「棋聖之印」
「棋王之印」
「竜王之印」
といった各タイトルの印鑑も併せてご注文いただきました。

思えば秀碩も将棋が好きでした。

私も小学生のころ、彼から将棋の手ほどきを受け、いっとき熱中しました。

しかし、自分の息子相手にいささかの情け容赦もない秀碩に負かされ続け、面白くないのですぐ飽きてやめたのを思い出します。

その時は内心「子供相手に大人気ねえな」と毒づいたりもしましたが、それも遠い日の良い思い出です。

そんなことより、もし秀碩がいまだ存命であったなら、今をときめく若き天才棋士の大活躍にさぞかし胸を躍らせたに違いなかろうと、少々残念に思います。

日本将棋連盟様、その節は秀碩にこのような栄えあるご注文を頂戴し、まことにありがとうございました。

■長年の親友との「印章作品二人展」を見る>>